魅力的な藍染を作り出す「バニアン工房」多田羅稔さんを訪ねる。​

魅力的な藍染を作り出す「バニアン工房」多田羅稔さんを訪ねる。

8月末、長野県の多田羅さんのアトリエ「バニアン工房」にお邪魔した。
多田羅さんは平安時代から伝わる極めて自然と寄り添う染織技法を守り藍染を行う日本でも稀な職人さんで、私たちの衣服にも藍染を施してもらっているご縁から今回の訪問となった。多田羅さんが暮らす長野県伊那市高遠町は、長野県南部の伊那谷の北部に位置し中央アルプス、南アルプスを望むことができる自然豊かな環境だ。

人間国宝の故千葉あやのさんの技法を学び実践する

多田羅さんが行う藍染めは、人間国宝の故千葉あやのさんの技法を文献などから学び独自で確立した技法。作業自体を分業することなく、年間を通じて藍染に関わる仕事を行う。藍染の工程で藍を加熱することなく、季節と共に変化する気温によって発酵させる技法で、使用する藍も多田羅さんが自ら栽培したものだ。

桜の咲く頃に藍の種を撒き、8月から9月末にかけて3回ほど藍を収穫しながら、冬に作り上げた藍玉で染織を行う。
藍玉も夏に収穫した藍を発酵させてすくもを作り、そのすくもを臼でつくことでやっと完成する。このように、多田羅さんが行う藍染は暖かい時期には栽培と染織、寒い時期には藍玉づくりと、四季に寄り添い自給自足で行われる。

武将が好んで用いた勝ち色としての「藍色」

武将が甲冑の装飾に、黒に近い藍色を好んで用いたと言われ、室町時代から勝ち色として親しまれた「藍色」。多田羅さんがつくる藍染はまさにその時代に作られた藍と同じ工程で作られる。最初の染めでは色が濃く、染めていけばいくほど淡い色に変わっていく。季節が夏から秋に移り変わる時期に染めの仕事は終わる。私たちが訪問した8月末は夏の終わりで、染めも終わりの時期。藍は程よく薄い色になり、爽やかな色合いで衣服たちを染め上げていた。

グラフィックデザイナーから海外へ旅に出て染織を志す

多田羅さんの経歴は非常にユニークだ。
福岡で生まれ育ち、20代には東京でグラフィックデザイナーとして経験を積み、その後はアメリカやインドを旅した後、沖縄で藍染めを始めようとするも適した土地に巡り合わず、約20年前に高遠町に移り住み現在の場所に移り住んだ。元々は農業なども人を雇い大きな規模で行っていたが、現在は1人で藍染を行っているそうだ。

一つ一つ丁寧に染め上げられる衣服も、こんな豊かなストーリーが背景に存在する。私たちは多々羅さんたちのような方たちから色々と生き方を学ばせてもらっている。だからこそ私たちには、店先に並べる衣服を通じて、脈々と受け継がれている歴史や文化を伝える義務がきっとあるんだろうと感じている。

せっかく着るなら作った人が見える衣服の方が大切にしてもらえるかも知れないし、私たちはその衣服をずっと直し続けるし、土に還るまで大切にしてもらえるとしたら、作ってくれたひとも、衣服もきっと喜んでくれるんだろうなと思う。そんなものづくりにずっと関わっていたいと思う。

多田羅稔さんのアトリエ

バニアン工房

〒396-0304
長野県伊那市高遠町山室2031

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